求人票の書き方、見かたについて

求人票の書き方、見かたについて

【筆者】 嶋﨑量(しまさき ちから)弁護士

求人詐欺トラブルのデメリットとは?

増える求人トラブル

求人広告や求人票と、実際に働き始めた後の労働条件の相違が原因となるトラブルが増加しています。厚生労働省の発表によれば、平成28年度のハローワークにおける求人票の記載内容と実際の労働条件の相違に係る申出等の件数は9,299件であり、平成27年度は10,937件です。1年間で15.0%減少しているとはいえ、その件数は膨大です。しかも、ここに挙げられたトラブル件数はあくまでもハローワークを介したものに限られますから、求人情報サイトや求人情報誌など他の媒体を通したトラブルを含めれば、その件数はもっと増加することになります。
 
こういった求人トラブルは、仕事を探している労働者だけでなく、使用者にとっても大きなダメージです。

労働者にとってのデメリット

一旦就職を決めて働き始めた後になって、労働条件が約束とは異なることが判明した場合、普通の労働者は

  1. 退職して他の仕事を探す
  2. 我慢して働く

のいずれかが一般的です。 場合によっては、一定期間(2)我慢して働きながら、(1)他の仕事を探すパターンもあります。労働者の立場からすれば、早期離職の経歴があると次の就職時にも不利になりかねないし、離職により収入が途絶えるのは困るので、直ぐに(1)退職して他の仕事を探せばよいという訳にはいかない場合も多いからです。就職活動は、簡単にやり直しが利くものではないのです。

使用者にとってのデメリット

人手不足で多くの企業が悩む中、少しでも早く良い人が来てほしいと願うのは使用者であれば当然のことでしょう。とはいえ、現在は就職に関する悪い情報も、インターネットなどを通じて直ぐに拡がりがちです。見せかけの良い労働条件をウリにした「求人詐欺」を行っているという評判がたてば、良い人材を集めることはできなくなり、中長期的には困った事態になるでしょう。

また、当初の求人段階から使用者に「騙された」と感じた労働者が、その職場に愛着を持ち長く働こうと思うはずはありません。早期離職→人手不足による既存社員の負担増など労働条件悪化→離職者の増加→さらなる人手不足、という負の連鎖を生む可能性もあるのです。

双方にデメリット

このように求人情報によるトラブルは、仕事を探す求職者(労働者)にとっても、人材を募集する使用者にとっても大きな問題です。そのため、これまでも職業安定法の規定で、虚偽の広告などで職業紹介を行った者が罰則の対象となっていましたが、あらたに虚偽の求人申し込みを行った求人者に対しても、罰則の対象になることが定められました(職安法65条9項)。また、罰則だけでなく、勧告や従わない場合の公表といった指導監督の制度も盛り込まれました。

とはいえ、こういった罰則は運用上、適用要件が厳格で、さほど実効性がないだろうといわれています。そこで、求人者・求職者の双方にとって重要なのは、できる限り適正な求人情報が確保されることであり、職業安定法の近時の改正などを通じても、そのための法整備が重点的に進められました。

求人票で明示が求められる労働条件(※1)

それでは、具体的に求人票・募集要項等には何を記載するべきでしょうか。
求人 トラブルへの対策を念頭に平成29年に職業安定法が改正され、職業安定法第5条の3第1項が定めている募集時の労働条件の明示について、これまでよりも詳細な明示が要求されています(職安法に基づく指針 ・平成30年1月1日より施行)。 上記の表にある事項について、書面(または求職者が希望する場合はメールでも可)で明示をすることが求められています。特に注意すべき点は、新たに追加された(1)試用期間、(2)裁量労働制、(3)固定残業代制度であり、いずれもこれまで求人トラブルが多かった項目です。

まず、(1)試用期間、(2)裁量労働制について、募集時にも明示が必要になりました(平成30年1月1日施行の職安法に基づく指針 )。労働者が予想していなかった①試用期間が設定されてしまい、試用期間満了により本採用を拒否される(法的には解雇となり、使用者が労働者を自由に契約解消できるわけではありません)とか、一旦設定された試用期間が説明とは違う長期間であったとか、試用期間が延長されるなどのトラブルがあります。この点について、募集要項できちんと明確に規定しておくことが重要です。

また、(2)裁量労働制の明示を欠くケースもトラブルが多く発生しています。裁量労働制とは、長時間残業しても、一定の「みなし時間」しか働いていないとされてしまう制度です。このため、働き始めてから、何時間残業しても残業代が「みなし」時間分しか払われなかったなどのトラブルが発生しやすいのです。このような裁量労働制についても、きちんと募集要項で明確に定めておくことができる制度です。

とはいえ、この裁量労働制が適用できるのは、厳しく制限された一定の業務だけであり、採用するには細かい手続きも踏まねばならず、要件は厳格です。募集要項の明示をするまえに、適切に裁量労働制が導入されているのかをチェックするとよいでしょう。

さらに、(3)固定残業代制度も、(2)裁量労働制と同じく、長時間の残業と残業代支払いとの関係で、トラブルになるケースが多い制度です 。固定残業代とは、予め契約で賃金の一部として、一定の時間とそれに対応する一定の残業代を支払ったことにしてしまう制度です。基本給に組み入れてしまうパターンと、残業代として手当名目で支払ってしまうパターンがあります。この固定残業代制度が採用されると、見かけの求人情報の給与は残業代込みの金額が示されて、高い賃金が提示されることになります。とはいえ、その見かけは高い賃金には固定残業代が含まれいわば「水増し」されているので、後から長時間残業しても残業代が支払われないとして、トラブルになりがちです。

こういったトラブルを防ぐため、固定残業代の制度を適用する場合には、先の表にある通り、

a.固定残業代を除く基本給
b.時間と金額を明記した固定残業代の内訳
c.固定残業代に含めた時間外労働を超えた時間外労働

については、割増賃金(残業代)を追加で支給する旨の記載、がそれぞれ求められるようになりました(上記指針)。
なお、この固定残業代は、裁量労働制とは異なり、法律で定められた制度ではなく当事者の合意(契約など)で導入されるものですが、判例では有効と認められるケースが限定されているので、後から制度導入が無効とされるリスクを負います。上記の指針が求める明示項目は厳格ですが、これが全て明示できないような場合には、せっかく固定残業代制度を導入しても、後から違法な運用であると否定されて固定残業代として支払った部分の賃金も基本給に組み入れて(この場合、残業代の単価が上がります)、1円も残業代を支払っていないことを前提に、残業代を支払わねばならなくなる法的リスクを負います。この求人票段階の指針で要件を明示できないようなケースは、導入自体を見送るのが賢明でしょう。

提示した労働条件を変更する場合(※2)

使用者が、求人票などで提示した労働条件を変更することは、現在の法律では禁止はされていません。とはいえ、求職者は求人票を信頼して応募してくるのに、契約するまでの過程で労働条件が変更(とりわけ、労働者に不利な変更がなされる場合です。例えば、正社員募集→パート社員募集への変更)があってはならないのは当然です。こういった恣意的な変更がまかり通れば、求人情報への信頼も揺らぎ、せっかく求人情報を適正化しようとした法改正も無意味になってしまいます。したがって、当初の募集時に示された労働条件は、そのまま労働契約の内容になることが期待されており、安易にこれが変更、削除、追加をしてはならないとされています(指針)。

また、たとえ、募集時の労働条件と実際に採用する時点とで労働条件が変更されている場合であっても、求人者には、求職者に対して、その変更した内容が容易に理解できるよう、変更箇所を対照することができる書面を交付するなど、具体的な方法をとることも求められました(指針)。

まとめ

求人者にとっても、求職者にとっても、求人情報をできる限り具体的に明示することが重要です。求人者は適正な情報提供を心がけ、求職者は具体的な情報が出されているかどうか自体を、仕事選びの際の指針にするとよいでしょう。

※1: 職安法は、公共職業安定所(ハローワーク)、特定地方公共団体、民間職業紹介事業者や自社で直接求人情報を提供する場合に、労働条件等の明示を要求しています(職安法5条の3)。他方で、職安法は、求人情報の責任を主として求人者に負担させているため、求職者に求人情報を提供している、いわゆる求人メディア(「募集情報等提供事業者」、具体的には新聞社〈いわゆる3行広告〉、求人情報誌、インターネットの求人サイトなど)について、許可・届出の義務も課しておらず、規制対象とはしていませんでした。そのため、求人メディアに掲載されている求人情報の内容については、職安法による求人情報の明示が要求されていません。とはいえ、この求人メディアを通じて仕事を探すケースも多く、この求人メディアにおける求人情報についても、適正さが担保される必要があります。そこで、職安法は求人メディアに対しても、業務の適正な運営を確保するために必要な指導及び助言ができるように定めています(職安法48条の2)。また、厚労省の受託事業である求人情報適正化推進事業では、求人メディアが自主的なガイドラインを設定して自主規制を行っており、求人メディアがガイドラインを遵守する動機付けとなり、求人者にもガイドラインを守る求人メディアの選別ができるように、適合メディア宣言を設定しています。詳しくは、求人情報適正化協議会のホームページ(外部サイト)を参照してください。
なお、求人メディアを通じて求人募集をする場合でも、直接求職者が求人者に応募してきた際には、職安法が要求する労働条件明示が必要ですので、その点は注意が必要です。

※2:上述の通り、職業安定法は全てのケースでは適用されず、求人情報誌、求人情報サイトなどは適用外です。したがって、求人情報サイトなどを通じて提示された労働条件が変更される場合については、職安法に基づく指針も適用対象外です。とはいえ、こういったケースでも変更が好ましくないという事情は変わりませんので、求人者は同様の配慮が求められると言ってよいでしょう。

嶋﨑量(しまさき ちから)弁護士

日本労働弁護団事務局長。ブラック企業対策プロジェクト事務局長。ブラック企業被害対策弁護団副事務局長。 神奈川総合法律事務所所属。働く人の権利を守るために幅広く活動している。共著に「裁量労働制はなぜ危険か」(岩波ブックレット)、「ブラック企業のない社会へ」(岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)、「企業の募集要項、見ていますか?-こんな記載には要注意!-」(ブラック企業対策プロジェクト)、「働く人のためのブラック企業被害対策Q&A」(LABO)など。

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