退職届・退職願の撤回について

退職届・退職願の撤回について

【筆者】 勝浦 敦嗣弁護士

退職届を撤回することはできますか?

退職届が辞職の意思表示である場合は、意思表示が雇用者に到達して効力が発生した後は、雇用者の同意がない限り撤回することができません。他方、退職届が合意解約の申込みである場合には、信義に反すると認められる特別の事情がない限り、雇用者の承諾の意思表示がなされるまでは、撤回することができます。

辞職の意思表示と合意解約の申込み

労働者からの退職の申し出には、
(1)労働契約の一方的な解約の意思であるもの(辞職の意思表示)
(2)雇用者との合意によって労働契約を解約しようとするもの(合意解約の申込み)
があります。

一般的には、退職届(「退職いたします。」などの形式のもの)は、一方的な解約で、(1)にあたり、退職願(「退職いたしたく、ここにお願い申し上げます。」など、お願いするという形式のもの)は(2)にあたるとされます。

もっとも、実際には、必ずしも(1)か(2)のいずれかが明らかでない場合もあります。このような場合、労働者からの退職の申し出が、(1)か(2)のいずれであるかは、労働者の意思や態度を含め、事実関係によって判断されることになります。

この点について、辞職の意思表示は、生活の基盤たる従業員の地位を直ちに失わせる旨の意思表示であるため、その認定は慎重に行うべきであるとして、雇用者の態度にかかわらず確かに労働契約を終了させる旨の意思が客観的に明らかな場合に限り辞職の意思表示と解し、そうでない場合には合意解約の申込みと理解すべきとする裁判例もあります(株式会社大通事件(大阪地判H10.7.17労判750号79頁)、全自交広島タクシー支部事件(広島地判S60.4.25労判487号84頁)など)。

退職の申し出が(1)と(2)のいずれであるかによって、意思表示が雇用者に到達した後に労働者が撤回できるか、という点で違いがあります。

(1)退職届(辞職の意思表示)の場合

表示が雇用者に到達して効力が発生した後は、原則として、撤回することができません(民法(以下、省略します)540条2項参照、前掲株式会社大通事件など)。もっとも、撤回が許されないのは、相手方である雇用者の利益を保護するためですから、雇用者の同意があれば撤回することができます。

(2)退職願(合意解約の申込み)の場合

これに対する雇用者の承諾の意思表示が労働者に到達し、労働契約終了の効果が発生するまで、雇用者に不測の損害を与えるなどの信義に反すると認められる特別の事情がない限り、撤回することができるとされています(学校法人白頭学院事件(大阪地判H9.8.29労判725号40頁)など)。

では、どのような場合に、雇用者の承諾の意思表示があったといえるのでしょうか。
労働者の合意解約の申込みに対する雇用者の承諾の意思表示は、就業規則などに特別の定めがない限り、辞令書の交付など、特別な方式による必要はないと考えられます(大隈鉄工所事件(最三判S62.9.18判時1296号15頁))。

雇用者の承諾の意思表示の有無の判断において、重要なのは、誰が退職承認の決定権を有しているのかということです。そして、退職承認の決定権を有する者が承諾の意思表示をしたといえるかについては、それぞれの事案の具体的事実に即して、個別に判断されることになります。

例えば、人事部長が退職願を受理したという事案において、人事部長に退職承認の決定権があるならば、その受理をもって労働契約の解約申込みに対する雇用者の即時承諾の意思表示がなされたものとし、これによって労働契約の合意解約が成立したものとする、とされています(前掲大隈鉄工所事件)。

他方、職務上分掌規程の上からも、会社運用の実態の上からも、人事権があったとはいえない常務取締役兼観光部長が退職願を受理したという事案では、その受理をもって雇用者の即時承諾の意思表示があったとは認められない、とされています(岡山電気軌道事件(岡山地決S63.12.12労経速1354号19頁))。

勝浦 敦嗣弁護士

弁護士法人勝浦総合法律事務所 代表弁護士。東京大学法学部卒業、2001年弁護士登録。大手企業法務事務所、司法過疎地での公設事務所勤務を経て、現在、東京と大阪で弁護士11名が所属する勝浦総合法律事務所にて、労働事件を中心に取り扱う。

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