信仰や思想を理由での不採用について

信仰や思想を理由での不採用について

【筆者】 勝浦 敦嗣弁護士

信仰や思想を理由に不採用としていいですか?

信仰や思想を理由に不採用とすることを直接禁止する法律の規定はありませんので、原則として認められます。ただし、その差別が顕著である場合、公序良俗(民法90条)に反し違法である、とされる可能性は否定できません。

雇用者が、その労働者を採用するかは原則として自由であり(採用の自由)、雇用者には、どのような者をどのような条件で雇うかを決定する自由(選択の自由)があります。もっとも、選択の自由は、何の制約もなく認められているわけではありません。例えば、募集および採用についての年齢を理由とする差別は、雇用対策法により原則として禁止されています。

他方、信仰や思想を理由とする差別については、(採用後の)労働条件における差別的取り扱いは労働基準法3条により禁止されているものの、募集および採用に関しては法律上の定めはありません。

信仰や思想を理由とした不採用をめぐる過去の判例

三菱樹脂事件(最大判S48.12.12民集27巻11号1536頁)

これは、労働者が、採用試験の際の身上書と面接において、学生運動などに参加していたことなどを秘匿していたところ、その後の会社側の調査で虚偽の申告があったことが判明し、このような行為は詐欺にあたるとして、試用期間終了直前に本採用を拒否されたため、労働契約存在確認の訴えを提起したという事件です。

裁判所は、憲法22条、29条などにおいて広く認められている経済活動の自由を根拠に、法律その他による特別の制限がない限り、原則として、雇用者には採用の自由が保障されており、思想、信条を理由として採用を拒否したとしても、当然に違法となるとはいえないとしています。
思想、信条の自由を保障する憲法19条や、信条による差別待遇を禁止する憲法14条は、

  • もっぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人に直接適用されないこと(私人である雇用者のこのような行為を直接禁止するものではないこと)

労働基準法3条は、

  • 採用後の労働条件差別についての制約であって、採用段階での差別を制約する規定ではないこと
  • このような採用拒否を直ちに民法上の不法行為とすることができないのは明らかであること
  • その他これを公序良俗違反と解すべき根拠がないこと

これらをその理由としています。
また、裁判所は、雇用者側が雇用の自由を有し、思想、信条を理由として採用を拒否しても違法ではない以上、労働者の採否決定にあたって、思想、信条を調査し、そのために関連する事項についての申告を求めることもまた、違法ではないとしています。

慶応病院看護婦不採用事件

その後の下級審には、上記三菱樹脂事件の裁判所の立場を前提としつつも、思想、信条が「採用を拒否したことの直接、決定的な理由となっている場合であって、当該行為の態様、程度等が社会的に許容される限度を超えるものと認められる場合」には、(採用拒否を違法とする)公権的判断がなし得ると述べたものがありますが(慶応病院看護婦不採用事件(東京高判S50.12.22労働民例集26巻6号1116頁))、その上告審において、憲法14条、19条、21条などの諸規定は私人に直接的にも間接的にも適用されないとして、この考え方は否定されています(最三判S51.12.24労経速937号6頁)。

もっとも、現在では、憲法の人権規定の私人間適用を否定する考え方に変化が生じています。また、個人情報保護の観点から、思想、信条などの個人情報の収集に対する規制がなされています(職業安定法5条の4、H11.11.17労告141号、H24.9.10厚労告506号)。さらに、厚生労働省は、公正な採用選考のために、採用にあたって、本来自由であるべき事項(思想、信条にかかわること)については調査しないようにすることが重要であるとの指針を公表しています。

以上からすれば、信仰や思想による差別が顕著である場合、公序良俗(民法90条)に反し違法である、とされる可能性は否定できません。

信仰や思想を理由とする不採用が違法である場合

このような場合であっても、採用の自由の観点から、雇用者に対して採用の強制を求めることはできず、雇用者の行為が不法行為(民法709条)にあたるとして、損害賠償を認め得ると考えられています。

勝浦 敦嗣弁護士

弁護士法人勝浦総合法律事務所 代表弁護士。東京大学法学部卒業、2001年弁護士登録。大手企業法務事務所、司法過疎地での公設事務所勤務を経て、現在、東京と大阪で弁護士11名が所属する勝浦総合法律事務所にて、労働事件を中心に取り扱う。

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