本採用後にタトゥーを入れてきた場合の解雇について

本採用後にタトゥーを入れてきた場合の解雇について

【筆者】 佐々木 亮弁護士

本採用後にタトゥー(あるいは髭、ピアス、茶髪、刺青など)を入れてきた場合、それを理由に賃金の見直しや解雇することは可能?

あの新人、タトゥーを入れている……!

採用面接の段階では気づかなかったり、試用期間中は分からなかったり、もしくは、本採用が決まってから初めてタトゥーを入れてきたり……と、様々な事情で、タトゥーを入れていることに後から気づく・分かることがあります。さて、その場合、賃金を下げたり、解雇したりすることはできるのでしょうか?

私的な行為は自由

まず、大前提として、労働者は使用者と労働契約を結ぶとはいえ、私的な行為については自由ですから、会社から制限される理由はありません。どんな髪型にしようと、どんな服装をしようと、どんな言動をしようと、会社から制限されるいわれはありません。

したがって、私的にタトゥーを入れるのも自由であるのが原則です。
そして、自由な私的行為に対して会社が制裁を与えることはできません。

仕事に関係すると一定の制限がある

しかし、いくら自由だとしても仕事に関係してくると、私的領域にも一定の制約が課されます。その典型例は、運送業のドライバーである労働者に対する、就業日前日の一定時刻の飲酒制限でしょう。また、接客業で茶髪・金髪なども、その接客業における客層などによっては問題になることもあります。

タトゥーは許されるのか?

最近は、ファッションとしてタトゥーを入れる人もおり、社会的な許容度も変わってきています。そもそも、タトゥーを入れることもその人の自由であり、自己実現の一つです。ですので、何がなんでもタトゥーは禁止ということはできないでしょう。

もっとも、タトゥー(入れ墨、刺青)に対して、人が抱く感情・感覚も多様です。そして、現在でもやはりマイナスのイメージを抱く人は少なくないと言えます。そうすると、一定の場合はタトゥーを入れることは、仕事に影響があるとみるのが、現在の社会通念といえると思われます。

裁判所はどう考えている?

平成27年10月15日の大阪高等裁判所の判決では、タトゥー(入れ墨)について、次のような見解を示しました。

「入れ墨に対する人の見方は様々であって,かつ,それは時代によって変化しているとしても,現時点の我が国において,反社会的組織の構成員に入れ墨をしている者が多くいることは公知の事実であり,他人に入れ墨を見せられることで不安感や威圧感を持つことは偏見によるものであって,他人から入れ墨を見せられないように配慮することが許されないことであるといえる状況にはないというべきである。」

この事件は、大阪市の職員(公務員)が入れ墨をしていたことから入れ墨の調査が職員に対してなされたというケースで、その調査の是非を争ったものです。裁判所は、入れ墨は「反社会的組織の構成員」に多いと断じています。また、入れ墨を見せられた側が不安感や威圧感を持つことがあるので、入れ墨を見せないように配慮することは許される、と述べています。

平成25年9月6日の大阪高等裁判所の事件でもタトゥー(刺青)に言及されています。この事件は、学校が生徒に対し刺青を理由に就学拒否をしたことは違法だとして争った事案です。ここでは、刺青について裁判所は、「刺青は反社会的集団のシンボルであり,容認できないという考え方を一概に非難はできない。」としています(ただし、この事案では就学拒否はやり過ぎとの結論)。このように、裁判所はタトゥーに対して寛容な社会が形成されたとまではみていないことが分かります。

こうしたことと仕事における影響のバランスを考えると、タトゥー=刺青だからとにかく許されない、という基準で考えることは妥当ではありませんが、その業種や労働者の担当職務、タトゥーの大きさや内容、体のどの位置に入れているかなどの事情を考慮して、仕事における影響を考え悪影響がある場合は、一定の制約は可能と言えます。

会社がルールを設定していない場合、している場合

以上の通りではありますが、会社にタトゥーなどを禁止するルールが設けられていない場合は、いきなり労働者に不利益を科すことは難しいと思われます。もちろん、「身だしなみ」など、抽象的な規定があれば、それに該当するとして、注意や懲戒などをすることもできなくはありませんが、紛争の火種を作ることになります。もしタトゥーを禁止したいというのであれば、明確なルールとしてあらかじめ設けておいた方が無難です。

では、タトゥー禁止を明確にしている場合、あらゆるタトゥーを禁止できるのでしょうか?これは、先ほども指摘した通り、会社は労働者の私的領域へは介入できないのが原則です。ですので、あらかじめルールを設けたとしても、その適用は仕事に関連する範囲に限られます。

たとえば、労働者が仕事中に着衣を脱ぐことがないような職場において、誰からも見えないような部位(たとえば背中の真ん中など)にタトゥーを入れていたとしても、それをもって不利益を科すことはやり過ぎであると言えます。逆に、あらかじめルールを設定しているのに、だれもが見える位置にタトゥーを入れ、周囲の労働者や取引先・顧客らに不安感・威圧感を与えている場合は、不利益を科すことができる場合もあります。

では、賃金の減額はできるか?

さて、では不利益を科すにしても、賃金の減額は可能でしょうか?この場合、懲戒処分としての賃金の減額(=減給処分)が検討されることになります。懲戒処分ができる場合は、労働契約法15条に定められています。

まず、就業規則などでタトゥー禁止というルールが設定され、その違反には懲戒処分があることがあらかじめ定められている必要があります。その上で、タトゥーがその労働者に入っているという事実があること、そして、そのタトゥーが先ほど指摘した会社の業種や労働者の担当職務、タトゥーの内容、位置などの事情を考慮して、懲戒処分を科すほどの問題であることが必要です。そして懲戒処分を科す必要があるとなれば、さらに、懲戒処分の内容として減給処分が妥当かどうかが検討されることになります。

また、単に契約内容としての賃金額を見直すことができるかどうかですが、これはそう簡単にはできません。賃金は、労働契約の重要な要素であり、労働者にとって生活の基盤となるものだからです。賃金規程などで、能力評価や成果などで賃金額が上下するようなルールを定めている場合であれば、タトゥーを入れていることがこの評価・成果と関連づけられている必要があります。その手続きの範囲内かつその限度でのみ、賃金の減額は可能です。

また、そうしたルールもなく単にタトゥーを入れているから賃金減額というのは、上記の懲戒処分以外では困難です。労働契約も、それが契約である以上、一方の当事者である使用者の意思のみで賃金額を減額することはできないというのが原則だからです。

解雇はできるか?

解雇の場合は、懲戒解雇については減給処分と同様に考え、解雇するほどの処分が妥当かどうかが問われます。普通解雇の場合は、客観的合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ解雇は無効となりますので、タトゥーを入れたことが、解雇の理由として客観的で合理的な理由となるか、社会通念上相当であるかが問われます。

この判断も、先ほどから指摘している通り、会社の業種や労働者の担当職務、タトゥーの内容、位置などの事情を考慮して見極めることになります。

茶髪、髭、ピアスは?

これらに関しても基本的な考え方はタトゥーと同じです。しかし、タトゥーに比べれば、いずれも社会的な容認度は高いと言えますので、これらをもって労働者を処分するには、その会社の業種、労働者の担当職務などが、よほど茶髪や髭、ピアスだと困るような場合でなければならないでしょう。

時代によって変わっていく

タトゥーへの社会的な容認度も一定ではありません。遠山の金さん、やくざ、ファッションなど、世代によって、イメージする内容も違うでしょう。基本的には個人は自由であるということを前提に、職場においては私的領域をいたずらに侵害しない程度の最小限度の制限・規制にとどめるのがいいのではないでしょうか。

佐々木 亮弁護士

東京弁護士会弁護士。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団常任幹事。ブラック企業被害対策弁護団代表。ブラック企業大賞実行委員。首都圏青年ユニオン顧問弁護団。民事事件を中心に取り扱う。また、労働事件は労働者側・労働組合側の立場で事件を取り扱う。

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